職場の前店長は仕事はできる人だったけど、性格に難ありだった。
忙しかったり人手が足りなくて売場が荒れ始めたりするとすぐに不機嫌になって、バックヤードで段ボールや空きコンテナを投げたり、大きな音を立てて物を置いたり、パソコンのキーボードを高速でガチャガチャ叩いたりしていた。
注意したいことや指導したいことがあれば穏やかに伝えればいいのに、怒りに任せて紙に書いてスタッフの見る掲示板にベタベタ貼っていくんだけど、必ず一言多くて、注意事項の最後に「何年やってるんだ」とか「それで給料もらう気か」とか「こんなこと言われるまでもない常識中の常識だと思うけどね」とか、いらんイヤミが書いてあった。
必要なことがあって声をかけたくても、今大丈夫かなと顔色を窺わないといけないし、直接自分が怒鳴られる対象になってなくても、他の人がキレられているのを見るのも不愉快なもので、スタッフたちは委縮しまくっていた。
私も含めて、オープンから数年たっても残っている勢はある程度前店長の怒りポイントに火が付く前に気づけるようになっていたもんで、最後の1年程度は四六時中怒鳴って乱暴に動いているような状態は減ってはきたものの、すでに「そういう人」とみんなから認知されちゃっているので、今さら仕事ができてなおかつ部下に真っ当な態度で接するいい上司というキャラ変はできないまま来ていた。
そして昨秋に前店長は異動になった。
キャラ変するなら環境が変わって知っている人が少ないところに行くときがチャンスだよと老婆心ながら思っていたら、なんとなんと、前店長、新しい店では「穏やかな店長」になっているらしい。実は会社のHPの店長紹介のところで、今まで使っていた口元をキュッと引き締めたような写真をやめてやけににこやかな写真に変えていたので「お、もしかして印象変えようとしてる?」と思ったのよね。
当然、一部同僚とかで過去に別の店で一緒に働いたことがある人もいるんだけど、うちの店の店長になってからの様子は知らない人が多いだろうし、異動先のパートバイトはもちろん何も知らないから、うまくキャラ変できたようである。
現店長が他の社員たちと話しているのを小耳にはさんだんだけど、発注などを引き受けるセンターの人たちが「○○さん(前店長)変わりましたね~」と言っているそうだ。
以前は店とセンターとのやり取りで不備などがあると、読むと凹むような叱責メールを送り付けたり、私も実際に目撃したけど電話口でどやしつけて最後には受話器を叩きつけてガチャ切りしたりということがあった。でも今はそういうことがないそうだ。
仕事場に、どこに地雷が埋まってるかわからない危険物みたいな人がいると、「また今日も怒鳴り散らすのかな」と出勤する前から憂鬱になるし、実際それで辞めちゃったスタッフも大勢いるわけだから人的損失も多大きかった。
今はとっても心が平穏である。
ただし、前店長がキモになる商品や企画を自分で全部抱え込んでやってしまっていた代償は結構大きく、これからは自分らでやってねと放り出された形の部門担当社員たちと現店長は、数字が伸びてなくてああでもないこうでもないと試行錯誤の毎日である。
前店長は新しい店ではどうしているのだろう。相変わらず自分一人で仕事を抱え込んでるのか、それとも信頼して任せられる部下がいるのか。
一人で仕事を抱えて忙しくてももう不機嫌にならないぞと改心したんだったら何よりではあるけれど、もし信頼できる部下がいるから穏やかになったということであれば、うちの店で不機嫌に荒れてた理由はうちのスタッフたちがダメダメだったということか?